印鑑の基礎知識

債務不履行の3つの類型

履行遅滞・履行不能・不完全履行

ひとつ目は、約束した日時までに、債務を履行しないこと、これを「履行遅滞」と言います。
売買契約をして商品を受け取ったのに、約束の日時までにお金を払わない場合、請負契約をしたのに、約束の日時までに仕事を完成しない場合などがこの「履行遅滞」に当たります。

ふたつ目は、債務が履行できなくなってしまうこと、これを「履行不能」と言います。美術品のつぼの売買契約をしたのに、引き渡す前に誤ってつぼを壊してしまった場合などがこの「履行不能」に当たります。

最後は、債務の履行はあったものの履行が不完全なものであること、これを「不完全履行」と言います。ワインを100本購入したが、そのうちの1本にカビが生えていた場合や、引き渡された本数が足りなかった場合などがこの「不完全履行」に当たります。
それでは、自分が負っている債務をきちんと果たさなかった、つまり、債務不履行をするとどうなるのでしょうか。

もし債務不履行をしてしまったら

債務不履行があると、契約相手から裁判を起こされて、強制的に債務を履行させられたり、契約を解除されたり、損害賠償を請求されたりします。

契約が解除されると、契約は、最初からなかったことになります。そうすると、売買契約で商品を受け取っていた買主は、その商品を返さなければなりませんし、お金を受け取っていた売主は、お金を返さなければならないことになります。

また、契約相手は、債務不履行によって生じた損害について、損害賠償を請求することもできます。例えば、ある食品会社が、仕入れた原材料に本来、入っていないはずのアレルゲンが含まれていたため、製造した食品をすべて回収した場合、生じた損害を支払うよう、原材料の 販売会社に請求することができるのです。 なお、損害賠償は、契約を解除した後にでもすることができます。渡された本数が足りなかった場合などがこの「不完全履行」に当たります。

債務不履行があった場合の対応方法

日常の法律相談でとても多く接するのが、債務不履行に関するものです。たしかに契約は守らなければならないものですが、様々な事情によって、当初の契約が守られないことがあります。

そのようなときに、どのような対応をとることができるかを理解しておくことは、社会人として多くの契約に接する方々にとって、とても重要なことです。

そこで、ここでは、債務不履行があったときの対応方法について、少し踏み込んで解説したいと思います。
内容はやや専門的になりますが、以下の内容を読んでいただければ、債務不履行があったときにどのような対応ができるのか、また、多くの契約書に含まれている損害賠償条項の読み方、自分に有利な損害賠償条項の定め方等が分かっていただけるものと思います。

①裁判と強制執行

契約の相手が契約を守らない場合、例えば、お金を払うという約束をしているのに、お金を支払わない場合、債権者、つまり、お金を請求する側は、お金を払うよう求める裁判を起こして判決をもらい、その判決を使って強制執行をすることができます。

②解除

例えば、売買契約の相手方が約束の期限を過ぎても商品を引き渡さなかった場合、債権者は、いついつまでに商品を引き渡すよう債務者に言って(これを「催告」といいます)、それでも商品の引渡しがない場合には、契約の解除をすることができます(民法が定めている解除という意味で、これを「法定解除」といいます)。

また、不完全履行(ワイン100本を注文し、その引渡しを受けたが、そのうち1本にカビが生えていたような場合)の場合にも、不完全な程度が重大で契約した目的が達成できない場合には、催告をして解除することができます。一方、履行不能の場合には、そもそも債務を履行することが不可能なわけですから、債務を履行するよう催告する意味がないため、催告をせずにすぐに契約を解除することができます。

契約を解除すると、契約をしたときにさかのぼって、そもそもその契約が存在しなかったことになりますから、例えば、商品を買った者が、商品の引渡しを受けられずに契約を解除した場合には、商品を買った者は、その代金を支払う必要はなくなりますし、もし代金を支払ってしまっていたとしたら、代金を返すように要求することができます。

③損害賠償

売買契約の相手方が約束の期限を過ぎても商品を引き渡さなかった場合(債務不履行)、債権者は、催告して、それでも商品が引き渡されなかったときには、契約を解除することができるとお話ししました。

このような場合、債権者は、契約を解除するほかに、債務者に対して、損害賠償を請求することができます。この損害賠償ですが、原則としてお金で払ってもらうことになります。そして、損害賠償を請求するときに一番問題になるのが、その金額です。損害賠償の金額を決めるに当たっては、どのような範囲の損害について、いくらと評価するかを決めなければなりません。

(これだけ押さえればOK 印鑑・印紙・契約書の基本がわかる本 斎藤健一郎(著)より抜粋)