Q.拇印や書き判にも、押印したときと同じ法的効力がありますか?

Q.拇印や書き判にも、押印したときと同じ法的効力がありますか?

A.拇印や書き判は意思表示を示す証拠となりうることがあり、法的効力があると判断される場合があります。ただし、手形や小切手の振出しには認められないなど、一般的には、掛印や書き判は、署名(記名押印)としての法的効力はないとされています。

押印とは

押印とは、印鑑を持ち合せていないときに、指先に朱肉などをつけて、書類に指紋を残すことをいいます。一般的には親指を用いますが、人差指を用いることも多く、指印といわれることもあります。

書き判とは

姓や名前などを手書きし、周りを丸く囲んで印鑑のかたちのようにしたサインを書き判といいます。

母印と書き判の効力

拇印や書き判には、一般的には署名(記名押印)としての法的効力はありません。

判例においても、押印の押捺による手形や小切手の振出しは、指紋による鑑別が肉眼では不可能であり、機械力を借りる特別の技能を要するため無効とされています(大判昭7.11.19民集11巻20号2120頁)。

ただし、拇印や書き判がまったく無意味であるとは言い切れません。押印のない文書を取り交わしている場合には、相手方から、その文書は最終的、確定的な契約意思を表示したものではないと言い逃れをされるおそれがあります。しかし、ここに拇印や書き判があれば、確定的な意思を証明することができます。

なお、自筆証書によって遺言をする場合には、遺言者が遺言の全文と日付、さらに氏名を自書したうえで押印することが必要ですが(民法968条1項)、遺言者が印章にかえて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すれば有効であるという判例もあります(最判平1.2.16)。もっとも、後日の紛争を避けるためには、実印を使うのが望ましいでしょう。

コラム:拘置所で「指印」といえば......?

東京拘置所の「所内生活の心得」には、「書類またはせんに押印を必要とする場合は、左手人差指の指印を用いること」(傍点、引用者)という基本心得が記されているそうです。

佐藤優著『獄中記』(岩波現代文庫)によれば、「拘置所も役所なので、手続きの際には印が必要となる。しかし、囚人は印鑑を所持することができない。そこで、左手のひとさし指を『黒い朱肉」につけて、印鑑代わりにする。拘置所の職員は、ほぼ全員、懐中時計のような「黒い朱肉」を常時携帯している」といいます。

(印鑑の基礎知識―知らないではすまされない― 金融実務研究会(著)より抜粋)