Q.なぜ、売買契約書に署名(記名押印)するのですか?

Q.なぜ、売買契約書に署名(記名押印)するのですか?

A.売買契約書は、契約内容を明らかにして、紛争を予防し、裁判で

の立証を容易にするために作成されますが、その契約が本人の意思によって締結されたことを明確にするため、署名(記名押印)がなされます。

契約の成立

売買契約などの契約は、原則として契約の申込みとその承諾により成立します。

つまり、売買契約は、買いたい人の申込みに対して、売る人がその申込みを承諾するか、売る人の売りますという申込みに対し、買主が買いましょうと承諾して、双方の売買の意思が合致したときに成立しますから、契約書の作成が必ず必要というわけではありません。したがって、スーパーでの買い物の場合のように、内容が明確で、商品の受渡しがすぐに行われて、後から確認することがない場合には、契約書を作成するようなことはありません。

なぜ書面が必要か

しかし、売買契約はスーパーで商品を購入するように、契約が成立してすぐに代金の支払と引渡し等が終わるものばかりとは限りません。売買契約の商品等の目的物の引渡しが後で、代金の支払が先になる場合、商品が分割して引き渡される場合、引渡しに対抗要件が必要な場合など、商品の引渡しを受ける側からすると、確実に引渡しが行われるかどうか不安定になります。

また、商品は先に引き渡されるが、代金の支払が後になる場合や代金が分割払いになる場合などには、その支払期日や金額が明確でないと後で紛争が生じる可能性があります。

したがって、売買契約に関してどんな商品をどのくらい、いつまでに、どのような方法で商品等を引き渡すか、代金の支払時期、金額、違反したときの対応などを明確に定めておくことが必要です。そして、これらを書面に記録することで、時間の経過とともに不明確になることを防止するのです。

なぜ、署名(記名押印)が必要か

約束の内容を書面にしても、そのままではだれが作成したのか、だれとだれの間の約束かが明らかではありません。

したがって、約束がだれとだれとの間のものであって、その約束(契約)が、各々本人の意思に基づいて行われ、契約書とされていることを明らかにするために、契約書に署名(記名押印)を行います。

署名(記名押印)した書面があれば、紛争が生じたときに、契約書が合、の内容を表したものと推定され、判断の基準とされます。また、売買契約に係る債権が譲渡されたり、当事者が死亡した場合などで契約当時の事情を知らない者が当事者になって紛争が生じたとしても、署名(記名押印)された契約書があれば、契約内容をもとに解決することができます。

民事裁判のルールを定めている民事訴訟法228条1項によれば、「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない」とあり、裁判において契約書などの文書を証拠として提出する際に、争いがある場合には、証拠を提出する側が、契約書が作成者の意思に基づいて作成されたことを立証しなければなりません。ただし、その立証は困難なところがあることから、同条4項において「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という規定が設けられています。

コラム:書面の交付が必要な売買契約

分割払いで商品やサービスを提供する場合には、書面の交付が必要なことがあります。売主が国や地方自治体のとき、売主が労働組合や会社であって組合員や従業員に販売するときなどを除いて、売主が個人と契約する場合です。

割賦販売法において定められた方式で商品、役務、指定権利の取引を行う場合、売主は、販売金額や分割支払額、その他法律で定められた事項を記載した書面を買主に交付しなければなりません。なお、これらの商品等を訪問販売などで取り扱う場合は、分割払いでなくとも、特定商取引法で所定事項とともに、クーリング・オフできる旨を告知する書面の交付が別途必要です。

(印鑑の基礎知識―知らないではすまされない― 金融実務研究会(著)より抜粋)