Q.個人が印鑑登録した後、登録した印鑑(実印)を変えることはできるのですか?

Q.個人が印鑑登録した後、登録した印鑑(実印)を変えることはできるのですか?

A.印鑑(ハンコ、以下同様)を変えることは可能です。手続は、各市区町村で定めた印鑑条例の定めるところによります。

ハンコが不鮮明になったり、紛失・盗難された場合

個人が印鑑登録した後のハンコの運命はさまざまです。印鑑登録をしたハンコは、重要な契約などの場合に使用されるもので、認印などと異なり、使用頻度は相対的に低く、割と長く使用されるのが普通です。

それでは、そのようなハンコが一般的に、印鑑登録後どのような推移をたどることがありうるのか考えてみましょう。

基本的には、ハンコが物理的には存在するが、経年変化で摩耗したり、一部が欠けたり、あるいはその他の理由で印影が不鮮明になってしまい、市区町村から発行された「印鑑登録証明書」との照合ができなくなる場合があります。

また、紛失したり、盗難に遭ったり、はたまた火災で燃えてしまったりして、ハンコが物理的にも印鑑登録をした本人の手元に存在しなくなることがあります。このような場合への対応は、一種の緊急事態の発生であり、個人の危機管理の問題でもあります。

さらに、物理的には存在し、「印鑑登録証明書」との照合にも問題はないけれど、その他の理由により、使用に適さなくなる場合があります。たとえば、氏名の変更等により、印鑑の同一性の判断に問題が生じる状態が発生するケースです。このような場合には、印鑑条例により自動的に登録を抹消する市区町村もあります(東京都小平市ほか)。

また、一部印影が欠けたりしてはいるものの、照合には問題はありませんが、縁起が悪いなど心理的な理由によってハンコの使用に問題が生じる場合です。その他、ハンコそのものにはまったく問題はないにもかかわらず、個人的に登録した印鑑を変更したくなることもあるようです。

印鑑の変更手続

市区町村で定めたそれぞれの印鑑条例をみると、多少異なる表現を使用していますが、その手続はほぼ同じようなものと考えてよいと思われます。

多くの市区町村では、自発的に印鑑を変える場合以外を総合して「印鑑を亡失したときは……」と規定するか(横浜市印鑑条例12条2項、港区印鑑条例14条2項など)、「印鑑を紛失したときは……」と定めています(神戸市印鑑条例10条など)。この手続は、可及的すみやかに行う必要があります。

また、自発的に印鑑を変更する場合は、既存の印鑑の登録の廃止と新たな印鑑についての新規登録の組合せになりますが、「印鑑の登録の廃止を受けようとする者は・・・・・・」というように規定しています(神戸市印鑑条例13条、横浜市印鑑条例12条など)。これらの規定をみると、個人には、原則として各市区町村の定める印鑑条例による制限はあるものの、印鑑を変更する自由があるといえます。

いずれにせよ、各市区町村に、印鑑の新規登録、印鑑の亡失、印鑑の粉失、そして印鑑の登録の廃止、それに対応する申請書の様式がそれぞれ備えられています。なお、多くの市区町村では、同時に新しい印鑑の登録をすることになりますが、新規の印鑑登録とほぼ同様の手続になっています。そして、当然のことながら、新しいハンコを準備する必要があります。

なお、印鑑を登録するときは、あらかじめ必要な手続について市区町村役場に確認しておいたほうがよいでしょう。

コラム:印鑑はなくならない?

ネット銀行や大手行だけでなく、地方銀行でも個人客の「口座開設」や「住所変更」などの手続に「印鑑が不要」になりつつあります。スキャナーで印影をコピーして、転写したり、3Dプリンターで印鑑がつくれる時代に紙に押印させることが、はたして本人確認の意味をもち、取引が安全といえるのかという問題意識の反映でしょう。

しかし、印鑑の代わりにサインをするなど、紙の書類を利用するのはまだまだ多く、金融機関以外では、住宅購入契約、車検の申込み、自動車保険等の継続、車庫証明書、その他各種書類には、まだまだ印鑑を押すことは普通に行われています。

実印が要求される法務局での登記や陸運事務所での登録などの事務でマイナンバーカードなどを利用した電子署名方式が一般化し、金融機関との取引が完全にペーパーレスにならない限り、印鑑はなくならないのではないでしょうか。

(印鑑の基礎知識―知らないではすまされない― 金融実務研究会(著)より抜粋)