債務が履行されなかった場合の取り決め

契約の相手方がきちんと債務を履行しなかった場合には、債権者は、民法の規定に従って、 契約を解除することができます(これを法律が定めた解除という意味で「法定解除」と言います)。

例えば、売買契約で、相手方が約束の期限を過ぎても商品を引き渡さなかった場合、債権者は、いついつまでに商品を引き渡すよう債務者に言って(これを「催告」と言います。)、それ でも商品の引き渡しがない場合には、契約の解除をすることができます。 民法の規定に従うと、このような場合、解除するためには、解除前に催告が必要です。 しかし、「甲は、乙に対して、催告することなく、本契約を解除することができる。」などと いう条文を契約書に盛り込んでおけば、当事者は、催告をせずに解除ができるようになります (これを「約定解除」と言います)。

このように、解除できる場合を広く定めておくことで、当事者は、早く確実に契約を終了させることができるのです。

損害賠償に関する条項

債権者は、債務者が契約を守らなかった場合(債務不履行)、発生した損害の賠償を求めることができます。

損害賠償に関する条項については、「甲及び乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、その損害を賠償するものとする。」などと当然のことを確認的に書いておくだけの場合もあります。 ただ、当事者が別の合意をすることももちろん可能です。 例えば、相手が契約を守らなかったときの損害賠償の額について、あらかじめ当事者間で合意をし、「甲及び乙は、本契約に違反することにより、相手方に損害を与えた場合には、相手方に対し、損害賠償として金△△円を支払う。」などと契約書に書いておくこともできます。 このような合意をしておけば、損害額がいくらかを巡って争いが生じるのを避けることができます。

誠実協議条項

契約書の中で決められていないことや、契約書をどう解釈するかについて問題が生じたときには、当事者が話し合いをして解決しましょうという内容の条項です。

具体的には、「本契約に定めのない事項、又は本契約の解釈について疑義が生じたときは、 甲乙誠意をもって協議の上、解決する。」などと規定されます。

しかし、契約当事者の間で実際にトラブルが生じてしまったときには、あまり意味がない条項であると言われています。

完全合意条項

国内企業同士の契約ではあまり設けられないのですが、外国企業との間の契約の場合には、次のような条項が設けられることがあります。

「本契約書は、本契約に含まれる事項に関する当事者の完全かつ唯一の合意を構成し、当事者間に存在するすべての従前の合意は効力を失うものとする。」

「これは、契約書に書かれていない交渉過程での合意、例えば口頭で合意した内容や、電子メールで合意した内容等について、すべて無効とするものです。

この条項があると、契約の内容は、契約書に書いてあることがすべてとなってしまいますから、これまでの合意がすべて契約書に盛り込まれているかどうか、よく確認しなければなりません。

契約書には書かれていないけれども、皆さんの側に有利になるような合意がある場合、この条項がある契約書にサインをしてしまうと、その約束が無効になってしまいますから、注意が必要です。

費用負担条項

契約を締結する際には、印紙稅等の費用がかかります。これを契約当事者のどちらが負担するかについて定める条項です。

例えば、「本契約の締結に要する印紙その他の費用は、甲乙各自折半するものとする。」などと規定されますが、契約締結に要する費用が少額の場合等には、この条項がおかれないこともあります。

存続条項

契約書の中の一部の条項について、契約が終了したあとも引き続き効力が残るという内容の条項です。

例えば、契約の中に秘密保持について定めた条項がある場合などに、契約が終了したから、秘密を漏らしていいことになると不都合です。そのような場合には、「本契約がいかなる事由により終了した場合においても、第○条(秘密保持)、第○条・・・については、引き続き効 力を有する。」などと規定します。

合意管轄に関する条項

契約当事者間で争いが起きたときに、どこの裁判所に訴えを提起できるのかをあらかじめ決めておくための条項です。

例えば、東京と北海道の会社が取引をするときに、東京地方裁判所に訴えを提起すると決めておけば、東京の会社に有利になりますし、札幌地方裁判所に訴えを提起すると決めておけば、北海道の会社に有利になります。

具体的には、「本契約に関する一切の紛争については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」などと記載します。

ここで、「専属的合意管轄」とは、当事者が合意した裁判所だけに管轄(事件を審理する権限のようなもの)を認め、それ以外の裁判所には管轄を認めないということです。当事者が合 意した裁判所以外の裁判所に訴えを提起しても、訴えは却下されてしまいます。

後文

契約書の最後に、「本契約成立の証として、本書2通を作成し、各自署名押印の上、各1通 を保有する。」などと記載します。

このような記載があれば、だれが契約書の原本を持っているかわかりますから、紛争が生じたときに役に立つことがあります。

(これだけ押さえればOK 印鑑・印紙・契約書の基本がわかる本 斎藤健一郎(著)より抜粋)