Q.代表者印以外の支店長印、部門長印などが押された契約書には効力があるのですか? また、会社のハンコを不正に使用されないようにするためには、どのような対応をすべきですか?

Q.代表者印以外の支店長印、部門長印などが押された契約書には効力があるのですか?また、会社のハンコを不正に使用されないようにするためには、どのような対応をすべきですか?

A.支店長には、その支店の事業全般についての包括的代理権限があり、部長などの役職者にも、当該部署の担当範囲に属する事項について包括的代理権限が与えられています。したがって、会社の支店長や担当部門長には、その業務の範囲内において契約締結権限がありますから、契約書に押された支店長印や部長印も有効となります。

代表者印に限らず、支店長印や部長印などの会社のハンコを不正に使用されると、会社が大きな損失を被ることになりかねません。ハンコの不正使用を防止するためには、ハンコ自体の物理的な管理を厳重にするとともに、印章管理規程のような社内規則を定めたり、印章管理台帳を作成・準備したりする必要があります。

支店長名義や部門長名義による契約締結

会社が契約を締結する場合、契約書には、その会社の代表権を有する者、すなわち代表取締役名義の記名押印がされるのが通常ですが、そうではなく、支店長名義、部門長名義で契約書が作成されることもよくあります。このような契約も、その支店長あるいは部門長の与えられた代理権の範囲内に属する事項に関する契約である限り有効で、会社に対して効力を生じることになります。

支店長や部門長の代理権限

会社法は、「支配人」に会社の代理権があると規定しています(同法11条1項)。「支配人」とは、具体的には「支店長」や「所長」「営業所長」のように、その会社の営業所における事業を包括的に任されている人のことであり、その営業所における事業に関して、会社の包括的代理権を有しています。したがって、ある支店の業務に関し契約を締結する場合には、その支店の支店長は、当然に契約締結権限を有していることになるのです。

また、部長、課長という役職者についても、その担当部署の業務に関する包括的代理権を有しています(会社法14条1項)。したがって、たとえば「営業部長」であれば営業部の、「資材部長」であれば資材部の業務範囲に属する契約について、契約締結権限を有することになります。

小さい会社であればともかく、ある程度の規模の会社になるとその取引のすべてについて代表取締役が意思決定し、契約書に署名(記名押印)をすることは物理的に困難です。もちろん、会社から代理権を与えられた者が会社(代表取締役)にかわって取引を行うことも可能ですが、反復継続して大量の取引を行う会社にとって、個別の取引ごとに代理人を選任しなくてはならないとするのも非現実的です。支配人や部長などに上記のような包括的代理権が与えられることにより、会社としては取引ごとに代理人を選任するという煩瑣な手続をとる必要がなくなり、他方、取引の相手方としても、その使用人の代理権の有無をいちいち調査することを必要としないため取引の安全に資することになるのです。

ハンコの管理の重要性

会社のハンコは、代表者印だけでなく、支店長印や部門長印なども含め、会社の営業取引や官公庁へ提出する重要書類など多くのシーンで使われます。ハンコの保管方法や押印手続などの取扱いがずさんな場合、悪用などによって会社が大きな損害を被ることもありますので、ハンコの管理を担当する部門では、ハンコの管理方法をルール化するなど十分な配慮が必要です。

ハンコの不正使用の態様

ハンコの不正使用には、まず、

①ハンコ自体が偽造されて使用されるというケースが考えられます。また、
②ハンコが盗難に遭うなどして、部外者に不正に使用されてしまうというケース
③会社の役員や従業員が、自分に与えられた権限を越えてハンコを不正に使用し、あるいは権限のない従業員が勝手に会社のハンコを不正使用するというように、会社内部の者による不正使用のケースも想定しなくてはなりません。

まず、①のケース(ハンコ自体の偽造使用)を防ぐためには、偽造されにくいハンコを使用するといった工夫や、押印した書類からスキャナーで読み取られることを防止するために、名前などに一部かぶせるようにして押印するといった工夫が考えられます。
次に、②の部外者に不正使用されるケースですが、これに対しては、ハンコを会社の金庫や銀行の貸金庫などに厳重に保管する、銀行印と預金通帳や手形帳を別々に保管するといった物理的な管理で対応していくことになります。

最後に、③会社内部の者による不正使用の防止については、まず、ハンコの保管および押印の管理をだれがどのように行うかを、明確にルール化することが必要です。これについては会社の規模によっても異なり、小さい会社であれば、重要なハンコは社長自身が保管し、すべての書類に社長自身が押印するという場合もあるでしょうが、ある程度の規模の会社であれば、通常は、ハンコの保管や押印管理の仕事は総務部のような管理部門が担当することになるかと思います。この場合、押印の手続等について、「印章管理規程」といった社内規則を定めて明確化することが必要です。この印章管理規程では、ハンコの定義や種類、その使用範囲、管理責任者、押印手続などを定めることになります。また、だれが、いつ、何の目的で、どのハンコを使用したかといった、ハンコの使用履歴を残しておくことも重要です。そのためには「印章管理台帳」「押印記録簿」といった書類を作成しておくべきでしょう。

(印鑑の基礎知識―知らないではすまされない― 金融実務研究会(著)より抜粋)