Q.実印、印鑑登録証明書(印鑑証明書)はどのような役目を果たすのですか?

Q.実印、印鑑登録証明書(印鑑証明書)はどのような役目を果たすのですか?

A.法令により要求される場合や、当事者間で任意に使用されることがあり、それぞれ署名あるいは記名とともに本人確認や意思確認のために使用されます。すべて対象となる文書等に押されている印鑑(ハンコ、以下同様)と印鑑登録証明書(印鑑証明書)上の印鑑と照合され、その印鑑の同一性の確認をされることにより効力を発揮します。なぜなら、印鑑登録証明書(印鑑証明書)は、本人(またはその代理人)のみが取得できるからです。

印鑑登録と実印

古くは、明治時代の太政官布告に「……姓名ハ自書シ実印ヲ押サシム」と「実印」の言葉がみえますが、現在では「実印」は、法律上の用語ではありません。しかし、個人の場合で印鑑登録の際に使用したハンコによる印鑑、会社等法人の場合で登記所(法務局)に届けられた印鑑と同一の印鑑を押したものを指します。

また、印鑑登録したハンコ自体を実印と呼ぶことがあります。それぞれ、個人の場合は、各市区町村の定める印鑑条例に従って登録された印鑑であり、会社等法人の場合は、商業登記法の定めるところに従って届け出られた印鑑を指し、また、実印と呼んでいます。以上のように、実印とは、その印鑑の押印につき印鑑登録証明書(個人)あるいは印鑑証明書(会社等法人)と照合されその同一性を確認される印鑑のことをいいます。すなわち、ハンコが押印された文書等に印鑑登録証明書(印鑑証明書)が添付されていなければなりません。これが原則です。

印鑑登録証明書(印鑑証明書)とは

個人は印鑑を登録した後、印鑑カードまたは印鑑登録証(以下「印鑑カード等」という)を添えて、書面により登録した印鑑について証明書の請求をすることができます。この登録した印鑑についての証明書のことを「印鑑証明書」、あるいは「印鑑登録証明書」といいます。

これは、各自治体の印鑑条例に従い、印影、すなわち印鑑を登録した市区町村役場から発行されます。名称も、「印鑑登録証明書」ということが多いようです。

この印鑑登録証明書については、ほとんどすべての自治体が印鑑カード等を発行しています。発行専用の端末機を自動交付機として、印鑑カード等により、書面で請求することなく交付を請求できる制度を採用している市区町村もあります。また、平成15年8月からは住民基本台帳カード(各地方自治体が運営管理。ただし、発行は平成27年12月で終了しており、このカードについては有効期限内での使用も不可とする自治体もある)との複合運用、さらには平成28年1月からは国が運営管理する個人番号カード(いわゆるマイナンバーカード)との複合運用をする市区町村も増えてきています(以下「マイナンバーカード等」という)。なお、住基カードとマイナンバーカードの両方を所有することはできません。

前述のように、個人の印鑑登録は、その個人が住民基本台帳に登載されている市区町村にしなければならず、印鑑カード等を利用する場合には、その印鑑登録証明書も登録した市区町村でなければ交付を受けることはできません。しかし、最近ではマイナンバーカード等を利用することにより全国のコンビニエンスストア(コンビニ)等で同様に印鑑登録証明書を入手することができるようになりました(マイナンバーカード等による広域サービス)。

「印鑑登録証明書」には、登録された印影と相違ない旨の認証文のほか市区町村の定める印鑑条例に従った事項(登録者本人の住所、氏名および生年月日)が記載されます。なお、コンビニで受領する印鑑登録証明書には、偽造や改ざんを防止するため、裏面に特殊な印刷が施されています。

法人の「印鑑証明書」は、商業登記法の定めに従い登記官が発行します。その印鑑証明書には、やはり転写された印鑑につき届け出られた印影に相違ない旨の認証文のほか、商業登記規則で定められる一定の事項(会社等の本店、商号、代表者の職氏名および代表者の生年月日)が記載されています。

なお、印鑑カードの発行を受けていれば、本店所在地の登記所のみならず全国の登記所で「印鑑証明書」の取得が可能です。

「印鑑登録証明書」(印鑑証明書)の有効期間

基本的に、これらに有効期間はありません。ただし、会社等法人の場合には、代表者がかわっている場合には事実上使用できないことになりますが、その「印鑑証明書」の有効期間が切れて無効になったというわけではありません。

不動産登記法やその他の法令で、作成後3カ月以内や作成後6カ月以内のものでなければならないと定められていることがありますが、これはその法令の目的に従ってそれぞれ定められているもので、証明書そのものの有効期間ではありません。

どのような場合に実印を押すのか?

個人の場合、法令等により市区町村長に届け出た印鑑でなければならない、と定められている一定の場合です。また、会社等法人の場合には、法務局に届け出た印鑑でなければならない場合があります。この場合、その法令において同時に、添付書類としてそれぞれ「印鑑登録証明書」(印鑑証明書)の添付が要求されており、かつ、発行後一定の期間以内のものでなければならない、と定められている場合もあります。

法令等によって、実印を押すという定めがない場合においても、当事者間の契約で実印を押すよう要求されることがあります。この場合には、所定の書面に実印で押印し、さらに個人の場合は「印鑑登録証明書」、あるいは会社法人等の場合は「印鑑証明書」を添付することになります。

また、契約書等に、任意に実印を押すことがあるようですが、いずれにせよ「印鑑証明書」を添付しなければ実印であることが判明しませんので、証明力の点からは、ほかのハンコを使用した場合と同様の効果しかありません。

法令等によって実印を押すことが求められる場合

法令等による場合のいくつかをみてみましょう。

1.不動産登記を申請する場合

不動産を売買した場合の所有権移転登記や、抵当権等の担保権を設定する場合です。

この場合には、申請人またはその代表者(申請人が会社等法人の場合)が登記申請書または委任状に記名押印をしたときは、印鑑に関する証明書を添付しなければなりません。しかも、この証明書は、住所地の市区町村長(特別区の区長を含むものとし地方自治法252条の19第1項の指定都市にあっては、市長または区長)または登記官が作成したものに限られます(不動産登記令16条2項、18条2項)。この印鑑に関する証明書が、個人の「印鑑登録証明書」であり、会社等法人の場合の「印鑑証明書」です。

さらに、この印鑑に関する証明書は、作成後3カ月以内のものでなければならない、とも規定されています(不動産登記令16条3項、18条3項)。また、書面申請の場合で、不動産登記法関係の規定またはその他の法令の規定により、申請情報とあわせて提供しなければならない同意または承諾を証する情報を記載した書面に、作成者が記名押印したときは、印鑑に関する証明書を添付しなければなりません。しかし、この場合には、作成後何カ月以内という制限はありません。なぜなら規定がないからです(不動産登記令19条には、16条3項や、18条3項のような定めがありません)。

このことは、捨印付白紙委任状の重大な危険性へつながります。すなわち、権限なく白紙委任状の内容を補充されたり、委任状を、承諾書に書き換えられたりするおそれがあるので注意が必要です。

2.遺言書等を作成したり、私文書や定款に認証を受ける場合「遺言書等を作成しようとするとき、私文書に認証を受けようとするとき、または会社等法人の定款に認証を受けようとするときなどに公証役場に行くことがあると思います。その際に、公証人から「印鑑登録証明書」(印鑑証明書)を要求されます。この場合の「印鑑証明書」は、作成後3カ月以内のものでなければなりません(平成17年2月9日法務省第348号民事局長通達)。

コラム:公証人とは?

公証人は、実務経験を有する法律実務家のなかから法務大臣が任命する公務員で、公証役場で執務しています。その多くは、法曹資格を有する裁判官・検察官・弁護士や、これに準ずる学識経験者で公証人審査会の選考を経た者等から任命されます。

公証人の仕事は、大きく分けて、1公正証書(公証人が公証人法・民法などの法律に従って作成する公文書)の作成2私署証書や会社等の定款に対する認証の付与2私署証書に対する確定日付の付与の三つがあります。

公証人の行う私署証書(作成者の署名、署名押印または記名押印のある私文書)の「認証」とは、署名、署名押印または記名押印の真正を、公証人が証明することです。その結果、その文書が真正に成立したこと、すなわち文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたことが推定されます。

(日本公証人連合会ホームページより)

(印鑑の基礎知識―知らないではすまされない― 金融実務研究会(著)より抜粋)