Q.なぜ、不動産売買契約書には実印を使うのですか?

Q.なぜ、不動産売買契約書には実印を使うのですか?

A.動産売買は、高額な取引であり、権利の移転には、登記が必要です。登記の申請は、司法書士等の専門家に依頼するのが一般的ですが、本人の権限による取引であることを明確にするため、登記申請に係る委任状とともに、不動産売買契約書にも実印を押す実務が定着しています。

不動産取引と登記

土地や建物は、一般の動産のようにその所有者がいつも占有している状態とは限らないため、所有者について不動産登記簿に所有権の登記を行う公示制度があります。

動産の場合は、所有者から新所有者への引渡しにより、新所有者は動産に関する権利を取得し、第三者に対してもその権利を主張できますが、不動産の場合は、引渡しを受けても所有権移転の登記をしないと、第三者に対して所有権を対抗することはできません。

所有権移転登記

所有権移転の登記は、旧所有者を登記義務者、新所有者を登記権利者として、不動産の所在地を管轄する法務局(支局)の登記官に対する申請の方法により行います。なお、登記権利者とは、登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける人(買主)のこと、登記義務者とは、直接に不利益を受ける人(売主)のことです。登記の申請には、登記義務者の実印および印鑑登録証明書(法人の場合は印鑑証明書)の添付が必要とされます。

また、登記義務者が本人で登記を行わず、司法書士等の代理人により登記申請を行う場合は、代理人に登記申請を委任した旨の委任状が必要となりますが、その場合、委任状には実印を押し、印鑑登録証明書(印鑑証明書)を添付します。この場合、司法書士等は、現所有者自身の売買および所有権移転登記申請の意思確認とともに、犯罪収益移転防止法4条1項1号に基づく本人特定事項(自然人については氏名・住居および生年月日、法人については名称・本店または主たる事務所の所在地)の確認を行う必要があります。

不動産売買契約書

不動産売買契約書への押印については、法的な規制は存在しませんが、不動産取引は高額な取引となる場合が多く、慎重に本人の売買意思を確認しないと、なりすましによる架空の売買取引に巻き込まれるなど、無権限の売買が行われたりするおそれがあります。

不動産売買契約書、登記申請書または委任状に現所有者の印鑑登録された実印が押されていれば、現所有者の売買意思の推認がされますし、買主の印鑑登録証明書(印鑑証明書)により、買主の本人特定事項の確認ができます。したがって、実務では、不動産売買契約書への実印の押印が求められています。

コラム:書面を作成しなければ効力が生じない契約

法律上、書面を作成しないと効力が発生しない契約を「要式契約」といいます。

わが国では、保証契約(民法446条)と定期借地契約(借地借家法22条)などが各法律で要式契約とされています。これらの契約は、必ず契約内容を書面にすることにより、本人の契約締結意思をしっかりと確認しようとするもので、その意思の表れとして、署名(記名押印)が行われます。なお、保証契約には、連帯保証契約、根保証契約、身元保証契約などいくつかの種類があります。

(印鑑の基礎知識―知らないではすまされない― 金融実務研究会(著)より抜粋)