Q.署名と記名押印の効果は相違するのですか?

Q.署名と記名押印の効果は相違するのですか?

A.契約書をはじめ、いろいろな書類に署名・記名押印する行為は、

契約当事者の意思表示をすることで法律的な効果は同じです。ただ、記名押印は署名と相違して自分の名前が手書きされていないため、トラブルが生じたとき証明力が低いことです。

署名と記名押印の相違点

署名は、世間でいう自署(サイン)のことです。書類の当事者が手書きするわけですが、サイン=筆跡は人によって相違しており、筆勢・筆運など筆跡鑑定をすれば書類に記載された筆跡が当事者のものであることが確認でき、その信憑性もあり証明力をもつものとして信頼されています。欧米諸外国では印鑑制度はなく、すべてサインです。

この署名に対して記名押印とは、記名にあわせてハンコを押すことです。記名とは、書類の名義人が自署以外の方法(ゴム印、パソコン、タイプライター、代筆等)で自分の氏名を記載することです。

記名は、署名のかわりにはなりませんが、商法32条には「この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる」と規定されています(傍点は筆者)。

このように、法律では「署名=記名押印」とされており、署名の場合、押印は不要であると解されますが、わが国の実際の取引では、安全のため署名に加えて押印しておくのが通例です。

書類に署名(記名押印)する行為と権利・義務

もっとも、契約は当事者双方の合意があれば成立し、「口頭の約束」でも、契約書に署名(記名押印)した場合と法律上の効果はなんら変わることはありません。

では、何のために書面を作成し署名(記名押印)するのでしょうか?契約書がないと後日、「いった・いわない」と水掛け論になりかねません。そのようなことを回避するため、

①事柄を明確にして、
②取決め事項の違反防止策をして、
③後日の証拠とするために、
当事者が最終的に書類の内容を確認して署名(記名押印)します。

この行為によって、当事者間には権利・義務が生じます。商品の売買契約であれば、売主は「代金を請求する権利」と「商品を引渡す義務」が生じ、買主には「商品の引渡しを受ける権利」と「代金を支払う義務」が生じます。また、銀行預金の場合なら、払戻請求書に押印することで、預金者は「銀行に預けてある預金を返還する権利」を行使することになり、銀行は「請求額に相当する金額を支払う義務」が生じます。

署名を軽視するな

わが国では、古くからの習慣として、また制度としてハンコの制度があり、署名した後でも押印するのが一般的です。このため署名しても印鑑さえ押さなければ書類は有効にはならない、と考えている人がいますが、このような考え方は間違いです。私たちもクレジットカードで買い物をするときなどに、「サイン」をすることがよくありますが、ハンコを押さないからといって軽視をしないことです。

外国人の署名

日本に長期在留する外国人は「外国人の署名捺印及び無資力証明に関する法律」(明治32(1899)年3月10日法律第50号)により、外国人が法令の規定により捺印するときは、署名をもって捺印にかえることができる、と規定しています。この規定により捺印は不要とされています。

なお、ハンコを押すことを「押印」または「捺印」といいますが、「押療」という言葉もあるように、どちらも同じ意味で使われます。

コラム:署名証明と調節証明

署名証明および調印証明は、在留邦人(日本国籍をもち、日本国内に住民登録をされていない人)のために国の公館(大使館・領事館)が行うもので、日本での印鑑証明にかわるものとして、領事の面前で行われた私文書上の署名および掲印が申請された本人のものであることを証明するものです。日本での遺産分割協議、不動産登記、銀行口座の名義変更、自動車名義変更等の手続に使用されます。

(印鑑の基礎知識―知らないではすまされない― 金融実務研究会(著)より抜粋)