よくある質問

Q.金融取引における届出印の照合(印鑑照合)の方法と注意点

Q.金融取引における届出印の照合(印鑑照合)の方法と注意点

Q.金融取引における届出印の照合(印鑑照合)にはどのような方法があり、どのような注意が求められますか?

A.手形・小切手上の振出人の印影、預金払戻請求書上の預金者の印影と届出印鑑とを照合することについては、手形・小切手上の振出人の印影と当座勘定取引用印鑑の照合について「照合方法と照合義務」に関する最高裁判決に従うことによってトラブルを回避しています。
預金払戻請求書上の預金者の印影と届出印鑑との照合も、この最高裁判決を援用するのが一般です。

印鑑照合に関する最高裁判決の内容

最判昭46.6.10民集25巻4号492頁は、手形上の振出人の印影と届出印鑑との印鑑照合の「方法」および「注意義務」に関する最も重要な判例(先例となる判決)です。

手形・小切手上の振出人の印影と当座勘定取引用の届出印鑑(印鑑票の印影)との照合方法は、
③「記憶照合」
②両印影を平面に並べて肉眼で比較対照する「平面照合」
③手形・小切手振出人の印影を印鑑票に重ね合わせ、上下に動かして「その残影によって」、あるいは印影部分を折り曲げて印鑑票に折り重ね、折口が一致するか比較対照する「重ね合わせ照合」「折り重ね照合」
④「拡大鏡による照合」
がありますが、この最高裁判決は、原則として「平面照合」でよいとしています。

すなわち、銀行が、自店を支払場所とする手形について、真実取引先の振り出した手形であるか否か確認するため、届出印鑑と当該手形上の印影とを照合するにあたっては、特段の事情のない限り、「折り重ね照合」や「拡大鏡等による照合」の必要はなく、肉眼による、いわゆる「平面照合」の方法をもってすれば足りるとしています。その際の注意力については、社会通念上要求される金融機関の印鑑照合事務担当者として、「業務上相当の注意」をもって慎重に照合すればよく、このような事務に「習熟」している銀行員が、相当の注意をもって「熟視」するならば肉眼をもって発見しうるような印鑑の相違が見過ごされたときは、銀行側に過失があると判示しているのです。

印鑑照合の注意義務

さらに、当座勘定規定には「手形、小切手または諸届書類に使用された印影を、届出のハンコと相当の注意をもって照合し、相違ないものと認めて取り扱いましたうえは、その手形、小切手、諸届書類につき、偽造、変造その他の事故があっても、そのために生じた損害については、当行は責任を負いません」という免責約款がありますが、免責約款があるからといって、この注意義務が軽減されるものではありません。

免責約款は、銀行において注意義務を尽くして照合にあたるべきことを前提とするもので、右注意義務を尽くさなかったため、偽造手形を発見できなかったという銀行の過失があるときは、当該約款を援用することは許されないとも判示しています。

なお、印鑑照合の方法が適切でも、個別・具体的な印鑑照合時の注意力については、「印鑑照合事務に習熟」している担当者が、社会通念上要求される「業務上相当の注意」をもって慎重に照合しなければなりませんから、相当の注意をもって熟視するならば肉眼をもって発見しうるような印鑑の相違が看過されたときは、銀行側に過失があるとされること、しかも、免責約款はこのような注意義務を尽くして印鑑照合をしていたということを前提として、免責約款が適用される、というものですから留意しなければなりません。

これに関連して、「銀行の預金払戻事務担当者が、払戻請求書に押印された印影と届出印鑑・預金通帳の副印鑑とが異なっていることに気づかなかった(過失があった)場合でも、その両印影が、大きさが同一で、字体もほぼ同一であり、文字全体の印象はきわめてよく似ていて、一部に認められる相違も、使用条件の変化等によって生じる範囲内のものといえるなど判示の事情の下においては、右担当者のした印影の照合に過失はなく、この払戻しは有効である」とし、債権の準占有者に対する弁済も有効とした最高裁判決もあります(最判平10.3.27金判1049号12頁)。

預金払戻請求書上の印影と届出印鑑を相当の注意をもって照合し相違がないと認定した場合は、たとえ預金の払戻請求者が無権利者であっても、金融機関の払戻しは「善意」かつ「無過失」による弁済と解されました。

僚店での預金払戻しにおける印鑑照合

ところで、口座開設店以外の依店での預金払戻しについては、普通預金の口座開設店に提出された普通預金取引用の届出印鑑は、「電子印鑑照合システム」により依店の預金係(テラー)がコンピュータ操作で届出印鑑の画像を検出することができますから、預金払戻請求書上の印影をモニター上の届出印鑑の画像に近づけ、上記最高裁判決で示した注意をもって比較対照すれば(事故届等がない限り画像照合を平面照合と同様の注意義務を尽くして行えば)、依店での預金払戻しに問題はありません。

東京地判平14.3.22(金法1660号42頁)は、「電子印鑑照合システムは、各店に設置されている印影検索モニターによって払戻請求書の印影と照合するもので、従来の印鑑照合(印鑑票・副印鑑との印影照合)と同様、肉眼によって確認するものであるから、印鑑照合事務に習熟した職員が、社会通念上一般に期待される相当の注意を払ってその同一性について照合しても印影が酷似しているためその相違が見破れなかったが、不特定・多数人を対象とする短時間の預金取引を行う金融機関の行った印鑑照合に過失はない」と判示しています。

(印鑑の基礎知識―知らないではすまされない― 金融実務研究会(著)より抜粋)